繁殖期の鳥は大発生する昆虫の天敵になりうるか? ?ハバチの大発生に同調する鳥類を特定?
繁殖期の鳥は大発生する昆虫の天敵になりうるか?
?ハバチの大発生に同調する鳥類を特定?
ポイント
- 多くの鳥の営巣期である初夏に不規則に大発生するハバチに同調して数を増減させる鳥の種を調べた。
- ハバチの大発生に同調して数を増加させたのはゴジュウカラのみであった。
- ゴジュウカラはハバチの幼虫が移動に使う木の枝や幹を自由自在に移動できるため、ハバチの大発生に対応できたと考えられる。
- 一方、多くの鳥の種はハバチが大発生しても数が増えなかったことから、鳥全体としては不規則に大発生するハバチの天敵としては機能しにくい可能性が示唆された。
本研究成果はオランダの森林科学誌「Forest Ecology and Management (略称: For. Ecol. Manage.)」
オンライン版(3月15日付)に掲載されました(オープンアクセス)。
論文名:Responses of a bird community to sporadic outbreaks of woody herbivorous insects in a temperate beech forest in Japan
著者名:Kazuma Yasuda, Toru Taniwaki, Tatsuya Amano, Shinsuke Koike
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0378112724001361
概要
国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@農学部 安田和真(学部4年生)、同大学院グローバルイノベーション研究院 小池伸介教授、神奈川県自然環境保全センター 谷脇徹主任研究員、クイーンズランド大学 天野達也上席講師(兼任 bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院グローバルイノベーション研究院?特任教授) の共同研究チームは、9年間にわたり多くの種の鳥の営巣期(注1)である初夏に、数年に一回の頻度で不規則に大発生を繰り返すブナハバチ(以下、ハバチ)の発生数とその捕食者の一つである鳥各種の数を調査しました。その結果、ゴジュウカラだけがハバチの発生数に同調して数を増加させました。ハバチの幼虫はブナの葉を食べた後に枝や幹を移動しますが、幹を下向きに移動することを含め、木を自由自在に移動することができるゴジュウカラにとっては、移動中の幼虫は食べやすい存在であったと考えられます。一方、多くの種の鳥はハバチが大発生しても数を増加させることはありませんでした。そのため、鳥の群集(注2)としては不規則に発生するハバチの数を抑える天敵としての働きは大きくはない可能性が示唆されました。
研究背景
森林では葉食性昆虫(注3)が大発生することで、樹木の葉が食べ尽くされ、時には樹木が枯死することもあります。葉食性昆虫の中でも、ハバチ類(注4)は不規則な間隔で、突発的に大発生することが知られていますが、その理由はわかっていません。神奈川県の丹沢山地では大気汚染やシカの過増加などにより衰弱したブナ林において、ハバチが大発生することで、ブナの枯死が促進されることが問題となっています(図1)。このように謎の多いハバチの大発生に対しては、丹沢山地では捕食性の昆虫がハバチの大発生と同時に数を増加させることで、ハバチの天敵として機能することが知られています(詳細は過去のプレスリリース 「大発生のタイミングはお見通し??ハバチの不規則な発生に同調する寄生バチを発見?」を参照ください)。一方、同じくハバチを捕食することが知られる鳥が、ハバチの突発的な大発生に対して、どのように反応するのかはわかっていません。
ハバチが発生する初夏は多くの種の鳥の営巣期と重なります。営巣中の鳥は、卵を温め、雛の世話をしているため、食べ物を探すために巣からあまり遠くに移動することができません。そのため、鳥の種によってはハバチの大発生にあわせて数を増加させることができない可能性もあります。そこで、本研究では丹沢山地のブナ林において、9年間にわたりハバチの発生数とその捕食者の一つである鳥の各種の数を調べることで、ハバチの大発生に対する鳥各種の反応を明らかにすることを目的としました。
研究方法
ハバチは丹沢山地では主に5月に成虫が出現し、産卵された卵は6月には孵化し、幼虫はブナの葉を食べて成長します。その後、6月下旬には土の中で繭を作り、前蛹となります。
そこで、2013年から2021年の5月から6月にかけて以下の2つの調査を行いました。1つ目はハバチの発生数の調査で、昆虫捕獲器(注5)を用いてハバチのメスの成虫を採取しました。メスのハバチの数を数えることで、その後に発生する幼虫の数が推定できます。2つ目はハバチを捕食する可能性のある鳥の数の調査で、定点観察法によって鳥の種類と数を記録しました。具体的には、調査地点から半径20 m以内で観察された鳥の種と数を記録しました。そして、記録された鳥の種のうち、実際にハバチの幼虫を食べていることが観察され、記録された数が十分であった15種を解析の対象としました。
研究成果
9年間にわたる調査の結果、大発生を繰り返すハバチに対して多くの種の鳥は観察される数が変化しませんでしたが、ゴジュウカラのみがハバチの発生数にあわせて、観察される数が増減しました(図2)。
なぜ、ゴジュウカラのみがハバチの大発生にあわせて数が変化したのでしょうか。2つの理由が考えられます。1つ目は、ゴジュウカラは今回観察された鳥の中で唯一の下向きにも樹幹を移動することができる点です(図3)。ハバチの幼虫はブナの葉を食べた後に、次の葉に移動する際に枝や幹を使って移動します(図3)。特に、ハバチが大発生した際には、葉が食べ尽くされた木の周辺で、他の木への移動を試みる大量の幼虫が幹に群がるのが観察されます(図3)。そのため、枝や幹の上で目立ちやすいハバチの幼虫は、木の幹の移動を含む木全体を自由自在に動き回って食べ物を探索できるゴジュウカラにとっては、効率的に発見できる食べ物であると考えられます。2つ目は営巣場所の条件の柔軟性です。ゴジュウカラは樹洞(幹に空いた穴など)に営巣します。ゴジュウカラは既に存在する大きな樹洞でも、泥で固めて入り口の大きさを調節することで、営巣場所として利用します。そのため、他の樹洞で営巣する鳥の種よりも、多くの営巣可能な場所が森の中に存在します。ゆえに、食べ物となるハバチが大発生した場所に多くのゴジュウカラが営巣することができたと考えられます。
一方、多くの鳥の種は必ずしもハバチの幼虫を効率的に採餌できなかったり、営巣場所がハバチの大発生した場所の周辺に確保できなかったりなどの理由により、ハバチが大発生しても数が増えなかったと考えられます。
今後の展開
今回の結果より、鳥の群集としては不規則に大発生するハバチの天敵としては機能しにくい可能性が示唆されました。本調査地にはハバチのスペシャリスト捕食者(注6)である寄生バチも生息し、ハバチの発生の程度に同調して発生することが知られています。そのため、捕食者によるハバチの大発生に対するトップダウン効果(注7)をより詳しく明らかにするには、鳥だけでなくさまざまな種とハバチとの関係をあわせて考えることが必要です。
丹沢山地のブナ林の保全の観点からは、様々な要因で衰退しているブナ林においては、先行研究とあわせても、ブナハバチの大発生は自然界に存在する天敵の存在だけでは必ずしも抑えられないことを示唆しています(詳細は過去のプレスリリース 「大発生のタイミングはお見通し??ハバチの不規則な発生に同調する寄生バチを発見?」を参照ください)。そのため、人為的手法によるハバチの発生数を抑える対応策も検討する必要があり、環境に負荷のかからない方法を考えていく必要があります。
参照プレスリリース
「大発生のタイミングはお見通し??ハバチの不規則な発生に同調する寄生バチを発見?」
/outline/disclosure/pressrelease/2021/20220112_01.html
用語説明
注1) 巣を設け、その中で産卵し、孵化したヒナを育てている時期のこと。
注2) ある地域に生息する様々な種のあつまり。
注3) 植物の葉を食べ物とする昆虫のこと。ハバチのほか、チョウ、ハムシなど様々な種類が知られている。
注4) 植物を食べる原始的なハチの仲間で、植物体に切れ込みを入れて産卵するための平たいノコギリ状の産卵管を持つ。動物を刺すための針は持たない。
注5) 昆虫を捕獲する道具(トラッフ?)。屋根と十字に組み合わせた 2 枚の板とバケツで構成される、それらの黄色に誘引されたブナハバチが板に衝突して落下し、バケツ内の溶液の中に落ちて、捕えられる。通称、衝突板トラップ。
注6) 特定の種類の食べ物を食べる捕食者。
注7)生態系の上位にいる捕食者が餌となる下位の生物に与える影響。一般的に、肉食動物は草食動物の個体数を制御することが知られている。
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