樹木の主要成分であるリグニンから植物の成長促進剤の開発に成功~鉄欠乏土壌を救う環境に優しい金属キレート剤~
樹木の主要成分であるリグニンから植物の成長促進剤の開発に成功
~鉄欠乏土壌を救う環境に優しい金属キレート剤~
bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@、浙江大学、名古屋大学、佛山科学技術学院、中国科学院、ソーク研究所の共同研究グループは、樹木中に含まれる“リグニン”から、環境に優しい金属キレート剤を開発し、鉄欠乏土壌でも植物の生長を促進させることに成功しました。世界の耕地の 3分の1は鉄欠乏土壌であり、この研究成果により、耕作不適地においても作物の収量と品質を向上させ、食糧の安定供給に大きく貢献することが期待されます。
本研究成果は、Nature Communications (8月11付)に掲載されました。
論文タイトル:A lignin-derived material improves plant nutrient bioavailability and growth through its metal chelating capacity
URL: https://doi.org/10.1038/s41467-023-40497-2
背景
グリーンカーボンである樹木は、人間の食糧や家畜飼料と競合しないことから、バイオ燃料やその他の製品の原料を精製するための理想的なバイオマスと考えられています。樹木のうち多糖成分であるセルロースやヘミセルロースは、紙パルプやレーヨン、さらはエタノールや化学原料などにも変換することができます。しかしながら、樹木中に多量に含まれている“リグニン(注1)”は構造が非常に複雑であるため、有用な化学原料として使用することが難しく、有効な活用方法が見出されておりませんでした。
一方で、アルカリ性土壌により世界の農地の3分の1が鉄欠乏土壌とされ、これによって作物の収量が減少し、品質が低下しているという問題が存在しています。鉄不足を補うため、現在は土壌に化学合成品のキレート剤(金属に結合し、植物への吸収を促進する化合物)を添加する方法が取られていますが、これらは生分解性がなく、環境に対する負荷が非常に大きいばかりか、重金属汚染を引き起こす可能性も指摘されています。
リグニンは天然のポリフェノール性高分子であり、樹木中に大量に(20-30%)含まれます。そのため、安心して使える土壌改質剤として活用できるのではないかと考え、研究開発に着手しました。
木質材料を硫酸で加水分解することにより、単糖類を得ることができます。この糖類は家畜飼料として利用できるとともに、発酵によりエタノールを得ることができます。このプロセスは、非常に優れた活用方法ですが、残渣として得られる硫酸リグニン(SAL)は樹脂化してしまい、化学反応性が乏しいため、化成品などに利用することは非常に困難でした。
研究体制
本研究は、浙江大学環境資源学院の劉強 博士、Baohai Li教授、Zhihang Feng博士、Yihui Xiao修士学生、Xianyong Lin教授、名古屋大学農学国際教育研究センターの河合翼 博士、犬飼義明 教授、名古屋大学大学院生命農学研究科 青木弾 准教授、福島和彦 教授、佛山科学技術学院および中国科学院のWeiming Shi教授、ソーク研究所のWolfgang Busch教授ならびにbet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院農学研究院 松下泰幸 教授の研究チームで実施しました。
また、本研究はJSPS科研費(18H03959)および公益財団法人江間忠?木材振興財団の助成を受けて実施されました。
研究成果
我々の研究グループは、SALをアルカリ水熱反応により水溶化させることに成功しました(図1)。この水溶化した硫酸リグニン(HSAL)は、金属キレート能を持つことから、鉄欠乏条件下であっても、HSALを添加することでイネ、トウモロコシ、シロイヌナズナなどの単子葉および双子葉植物の生長を著しく促進できることを見出しました(図2)。また、遺伝子分析やシロイヌナズナの変異体を用いた実験などにより、HSALによる成長促進メカニズムを解析し、多くの植物に対してもHSALが優れた鉄キレート剤として働くことを証明いたしました(図3、4)。HSALは、合成キレート剤に代わる環境に優しい金属キレート剤として有望であり、本成果は英科学雑誌『Nature Communications』に掲載されました。
研究成果のインパクト
HSALの施肥により、これまで耕作不向きな鉄欠乏土壌においても、作物の収穫が見込まれ、食料供給の安定化に寄与できると考えられます。また、土壌の炭素貯留量も増加させることができるため、大気中の二酸化炭素の削減に大きく貢献することが可能です。
今後の展開
樹木中にはリグニンが約20~30%含まれており、設備を整えればHSALの大量生産が可能であり、広大な耕作面積での使用も考えられます。今後は、HSALの大量合成プロセスの開発とともに、HSALの構造解析を進め、より効率的な合成方法の開発を進めていく予定です。
さらに、HSALは特に根の伸長に寄与する性質がありますので、薬用植物(例えば甘草など)に適用することで、根に含まれる薬用成分の収量を増大させることが期待でき、国内での生薬?漢方薬の増産が見込まれます。HSALの活用により、より持続可能な農業と薬学の発展に寄与することが期待できます。
用語解説
:
注1)リグニン
維管束植物に存在している不定形のフェノール性高分子化合物であり、水の通道機能、物理的支持機能、微生物などからの防御機能などの役割を担っていると考えられている。
注2)opt3-2変異体
OPT3は鉄のトランスポーターとして機能し、師部へのローディングを担う。opt3-2変異体はその機能が低い。
注3)irt1-1変異体
IRT1は根の表皮などの細胞膜(イネ科植物以外)に存在する金属二価陽イオン輸送体であり、鉄の場合、Fe2+を細胞内に輸送する。irt1-1変異体はその能力が低い。
注4)fro2変異体
FRO2は根の細胞膜表層(イネ科植物以外)に存在する鉄キレート還元酵素であり、Fe3+からFe2+へと還元する。fro2変異体はその能力が低い。
注5)YSLトランスポーター
イネ科植物は、フィトシデロフォア(ムギネ酸)と呼ばれる高親和性金属キレーターを分泌し、YSLトランスポーターによって鉄錯体を効率的に細胞内に取り込む。
◆研究に関する問い合わせ◆
bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院農学研究院
環境資源物質科学部門 教授
松下 泰幸(まつした やすゆき)
TEL/FAX:042-367-5823
E-mail:fx7789(ここに@を入れてください)go.jskrtf.com
東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科
森林化学研究室 教授
福島 和彦(ふくしま かずひこ)
TEL:052-789-4159
FAX:052-789-4163
E-mail:kazu(ここに@を入れてください)agr.nagoya-u.ac.jp
関連リンク(別ウィンドウで開きます)
?