葉の構造を模倣し、生物活性物質を効率よく虫に経口摂取させる人工給餌システムを開発

葉の構造を模倣し、生物活性物質を効率よく虫に経口摂取させる人工給餌システムを開発

研究概要
 国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院農学研究院生物システム科学部門の鈴木丈詞准教授、大学院生物システム応用科学府生物機能システム科学専攻のNoureldin Abuelfadl Ghazy博士(日本学術振興会外国人招へい研究者)およびウェスタンオンタリオ大学(カナダ)のVojislava Grbic准教授(bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院グローバルイノベーション研究院外国人研究者)を中心とする国際研究グループは、葉の構造を模倣し、ハダニ類等の吸汁性の節足動物に、液体を効率よく経口摂取させる人工給餌システムを開発しました。本給餌システムは、外部環境から摂取した二本鎖RNAによって誘導されるenvironmental RNAiを作用機構とする次世代農薬の開発等、各種生物活性物質の生物検定での利用が期待できます。

本研究成果は、2020年7月27日にFrontiers in Plant Science誌への掲載が決定し、8月11日に公開されました。
論文名:A leaf-mimicking method for oral delivery of bioactive substances into sucking arthropod herbivores
URL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpls.2020.01218/

研究背景
 ハダニ(Tetranychus urticae)は、世界的に深刻な農業被害をもたらし、これまでに抵抗性が報告された化学合成農薬の殺虫成分数が節足動物の中で最も多い難防除害虫として知られています。そのため、従来とは異なる作用機構をもつ次世代農薬の開発が求められています。この次世代農薬の開発において、遺伝子発現を抑制するRNA干渉(RNAi)が注目されています。特に、外部環境から摂取した二本鎖RNA(dsRNA)によって誘導されるenvironmental RNAi(eRNAi)は、その配列特異性から、選択的防除(特定の害虫種のみの防除)を実現しうる次世代農薬の作用機構として注目され、その研究開発が国内外で進められています。
 eRNAi実験を実施する上で、人工給餌システムは最も重要な基盤技術のひとつです。ただし、ハダニは葉肉細胞の内容物を口針(注1)で吸汁するため、その人工給餌システムには、液体を経口摂取させるための仕掛けが必要です。従来は、パラフィン製の伸展性フィルムで液体を包んだ給餌システムが用いられてきました。しかし、この従来の給餌システムは、ハダニが摂食可能な領域の比表面積が小さいため、多量のdsRNA溶液が必要であり、eRNAi実験のボトルネックでした。

研究成果
 本研究では、このボトルネックの解消を目的とし、本来ハダニが摂食する葉の構造を模倣したシート状の給餌システム(特願2018-197157)を開発しました(図1)。本給餌システムは、葉の細胞に見立てた細孔内に液体を含浸するマイクロメッシュ(目開き:100 ?m)と、それを被覆する防湿性の薄膜フィルムから構成されます。本給餌システムは、比表面積が大きいため、ハダニ1頭あたりに用いるdsRNA溶液の量を、従来の給餌システムと比較して約30分の1まで減らすことができ、高効率なeRNAi実験が実施可能です。
 本給餌システムを用い、実際にeRNAi実験を行いました。標的遺伝子として、ハダニの中腸内腔で浮遊しながら食物を取り込む消化細胞(注2)での機能が示唆される液胞型プロトンポンプ(V-ATPase)(注3)の遺伝子を選びました。V-ATPase遺伝子のeRNAiにより、中腸内腔を消化不良様の消化細胞が充満し、体色が黒化するフェノタイプが出現しました(図2)。さらに、このフェノタイプでは、生存率や産卵数が低下することも判明しました。
 本研究グループは、この給餌システムがハダニのeRNAiだけでなく、様々な生物活性物質の担体として注目されているナノ粒子の経口投与(図3)や、既存農薬の経口毒性評価、さらにアブラムシ(Aphis gossypii)を用いた実験にも適用可能であることも示しました。
 以上より、本給餌システムは、吸汁性の節足動物における生物活性物質の生物検定やeRNAiを作用機構とする次世代農薬開発における基盤技術としての利用が期待できます。

研究体制
 本研究は、国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院農学研究院生物機能システム科学部門の鈴木丈詞准教授、同大学大学院生物システム応用科学府生物機能システム科学専攻のNoureldin Abuelfadl Ghazy博士(日本学術振興会外国人招へい研究者)、岡村麻代氏(博士前期課程2年)、齋佳苗氏(博士前期課程2年)、山川颯太氏(博士後期課程1年)およびFaten Abdelsalam Hamdi氏(博士後期課程1年)と、ウェスタンオンタリオ大学のVojislava Grbic准教授(bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院グローバルイノベーション研究院外国人研究者)から構成される国際研究グループによって実施されました。また、本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究B(18H02203)および外国人研究者招へい事業(L19542)と、科学技術振興機構OPERA(JPMJOP1833)の助成を受けて実施されました。

用語解説
注1)口針(stylet)
1対ある鋏角(第1付属肢)の可動指。鞭のように細長く、樋状構造である。摂食時に互いの樋状構造が組み合わさり、1本の中空針が形成される。

注2)消化細胞(digestive cell)
中腸の上皮組織由来の細胞。中腸の内腔で浮遊しながら食物を取り込む。食物を取り込んだ消化細胞内の小胞は、互いに合体して大きな液胞様の小器官が形成される。この小胞や液胞様の小器官内で消化された食物は、消化細胞ごと糞として体外へ排出される。

注3)液胞型プロトンポンプ(vacuolar-type H?-ATPase)
ATPの加水分解で得られるエネルギーを用いて、細胞質から小胞や液胞内にプロトンを輸送するタンパク質。ハダニの消化細胞では、小胞や液胞様の小器官の生体膜中に存在し、プロトン輸送によって、それら内部を消化に適した酸性に維持する機能が示唆されている。

図1. 本研究で開発したシート状の給餌システム上で食用色素を経口摂取するハダニ。
動画がご覧いただけます。
https://figshare.com/articles/media/Video_2_A_Leaf-Mimicking_Method_for_Oral_Delivery_of_Bioactive_Substances_Into_Sucking_Arthropod_Herbivores_mp4/12787685
図2. 本給餌システムを用い、V-ATPase遺伝子を標的とするdsRNAを経口摂取させたハダニ。V-ATPase遺伝子のeRNAiにより、中腸内腔に消化不良様の消化細胞が充満し、体色が黒化するフェノタイプが出現した。対照区では、遺伝子間配列(遺伝子の発現を抑制しない)のdsRNAを摂取させた(スケールバー:100 ?m)。
図3. 本給餌システムを用い、食用色素とポリスチレン製の蛍光ナノ粒子(粒径:500 nm)を経口摂取させたハダニ。対照区では、水を摂取させた(スケールバー:100 ?m)。

◆研究に関する問い合わせ◆
bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院農学研究院
生物システム科学部門 准教授
鈴木 丈詞(すずき たけし)
TEL:042-388-7278
E-mail:tszk(ここに@を入れてください)cc.jskrtf.com

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