天然物を利用した円偏光発光分子の新規合成法 ―2量体骨格の配座を制御して強力な円偏光発光を示す分子群を効率よく合成―
天然物を利用した円偏光発光分子の新規合成法
―2量体骨格の配座を制御して強力な円偏光発光を示す分子群を効率よく合成―
発表のポイント
◆アミノ酸から化学合成した天然物骨格と芳香族クロモフォアを4連続の薗頭カップリングで連結し、高輝度な円偏光発光を示すキラル8の字型マクロ環状分子群の新規合成法を開発した。
◆2量体型天然物骨格を適切に化学修飾することで柔軟な配座を合理的に制御し、一般に合成が困難なねじれた8の字型のマクロ環を効率良く構築する合成プラットフォームを実現した。これにより、交差する芳香族クロモフォア同士の角度?距離?長さを自在かつ精密に制御しながら、実際に強力な円偏光発光を示すマクロ環状有機分子を創り出すことに成功した。
◆キラルカラム等による光学分割を必要とせず、発光特性を自在に改変できる本手法は3Dディスプレイやセキュリティインク、バイオイメージング分野への応用が期待される。
発表概要
東京大学大学院理学系研究科の本田丞大学院生、大栗博毅教授は、東京理科大学大学院理学研究科の緒方大二大学院生、湯浅順平教授、北海道大学大学院総合化学院の鶴井真大学院生、同大学大学院工学研究院の北川裕一准教授、長谷川靖哉教授、東京大学大学院工学系研究科の吉田知史大学院生、佐藤宗太特任教授、およびbet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院工学研究院の村岡貴博教授らと共同で、キラル(注1)な天然物骨格を基盤とした分子設計により、強力な円偏光発光を示すキラルD2対称性8の字型マクロ環を簡便に合成しつつ、芳香族クロモフォア(注2)を自在に改変できるモジュラー式合成(注3)プラットフォームを開発した。主にsp2炭素で構成されるキラルな芳香族化合物を用いる従来の合成法の多くでは、光学活性なマクロ環を得るためにキラルカラム等での光学分割が必要不可欠であり、キロプティカル特性(注4)を有する有機分子創製のボトルネックとなっていた。
大栗らは、ロウバイ科植物 (Chimonanthus praecox) から得られるキモナンチン等に代表される二量体型天然物に着目した。これらの天然物は、キラルなC2対称型二量体型含窒素縮環骨格[ビスピロリジノインドリン(BPI)]を有する。本研究では、アミノ酸の一種であるL- (D-)トリプトファンからBPI骨格をグラムスケールで簡便に合成し、種々の芳香族クロモフォアを4連続の薗頭カップリング反応(注5)で一挙に連結させ、D2対称性を有するキラルな8の字型マクロ環状分子をワンポット合成(注6)で構築することに成功した。14?66員環構造を有する8の字型マクロ環を系統的に合成し、互いに交差する芳香族クロモフォアの角度?距離?長さを精密に制御するモジュラー式合成プラットフォームを開発した。これにより、骨格や立体化学を改変したD2対称型キラル8の字型マクロ環を自在に合成し、有機分子として非常に優れた円偏光発光効率を示す32員環マクロ環を創り出すことに成功した(図1)。天然物化学と材料化学を融合した本アプローチは、ほぼ独立して発展してきた両分野の架け橋となるユニークで重要な成果である。
本研究成果はAngewandte Chemie International EditionのFront Cover に選出されました。
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