Research Objectives
海産天然物には多彩て?ユニークな化学構造を持ち、極めて強い生理活性を有する化合物か?数多く存在する。このため現在、海産天然物の医薬品への展開を指向した合成化学的な見地からの研究か?活発に行われている。長澤研究室では、”海産グアニジン系天然物”、特に、[1]多環性グアニジン系天然物、[2]サキシトキシン、[3]ピロール·イミダゾールアルカロイドをターゲットとした全合成研究を行っている。
【1】多環性グアニジン系天然物
海産多環性ク?アニシ?ン系天然物、crambescidin類及びbatzelladine 類は、強力な抗ウィルス活性、抗菌活性、抗腫瘍活性など様々な生理活性を示すことが報告されている。当研究室では、その興味深い生理活性と、ユニークな骨格を有する一連の多環性ク?アニシ?ン系天然物の全合成研究を行っている。これまでに連続的な1,3-双極子付加環化反応によって得られる二置換ヒ?ロリシ?ン化合物を共通合成鍵中間体することで、Batzelladine A、D、K及びCrambesidine 359の全合成を達成している。
関連論文
Org. Lett. 2002, 4, 177.; Angew. Chem., Int. Ed. 2004, 43, 1559.; Chem. Eur. J. 2005, 11, 6878.
貝毒サキシトキシン(STX)は、フグ毒テトロドトキシンと同様、強力な電位依存性Naチャネル阻害活性を示すグアニジンアルカロイドである。STXには50種を超える多様な類縁体が存在し、いずれも三環性ビスグアニジン骨格を持つ。Naチャネルは骨格筋、心筋および神経細胞に広く分布する膜タンパクでこれらの活動電位の発生に重要な役割を果たしていることが知られている。Naチャネルには9種のサブタイプが存在し、これらに対する選択的な阻害剤は、NaVCh機能解析ツールや抗疼痛薬のリードとなる。長澤研究室では、サキシトキシン骨格を基盤とするサブタイプ選択的な阻害剤の開発を志向し、STX類の合成研究を行っており、これまでにサキシトキシン (STX)、do-STX、dc-STXそして最も官能基化された類縁体の1つであるGonyautoxin 3(GTX3)の全合成を達成した。
また、塩化亜鉛を用いたアセチル基の隣接機関与による構造変化を伴う環化反応を開発し、STX類縁体を合成するための有用合成中間体の開発に成功している。
関連論文
Angew. Chem., Int. Ed. 2007, 46, 8625.; Chem. Asian J. 2009, 4, 277.; Org. Lett. 2010, 12, 2150.; Chem. Eur. J. 2011, 17, 12144.; Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 11600.
ピロール·イミダゾールアルカロイド(PIA)は、オロイジンを生合成前駆体とする海産天然物群である。これらには数多くの構造類縁体が存在し、それぞれ多岐にわたる生理活性を示す。これらの中でDibromophakellin 、Cylindradine Aに代表されるPhakellin類は、環状グアニジンを含む四環性骨格と四級不斉N,N-アミナール構造(C10位)を共通に有する。これらPhakellin類の活性発現機構の解明を志向して、全合成研究を行っている。
長澤研究室では、温和な条件下進行するジアステレオ選択的Overman転位反応により、四級不斉N,N-アミナール構造の構築に成功している。
関連論文
Angew. Chem., Int. Ed. 2009, 48, 3799.; Chem. Asian J. 2010, 5, 1810.; Chem. Commun. 2014, 50, 6991.; Org. Lett. 2017, 19, 420.
有機触媒は、環境調和型の触媒として近年非常に注目されている。長澤研究室では、新規有機触媒の開発、開発した触媒を用いた不斉反応や新規反応の開発を行っている。特に近年では、水素結合能を有するグアニジン及びウレアまたはチオウレアを官能基として有する、二官能性鎖状有機触媒【グアニジン–(チオ)ウレア触媒】を用いた不斉反応の開発を行っている。
グアニジン–(チオ)ウレア触媒
グアニジン–(チオ)ウレア触媒は、グアニジン及び(チオ)ウレアの二つの官能基が光学活性なアルキル鎖で連結された鎖状構造を有する有機触媒である。本触媒は、光学活性なアルキル鎖で繋がれた両官能基が協調的に反応基質(求核剤?求電子剤)を認識し、基質間の活性化及び近接効果を誘起することで、従来の手法では困難な触媒的不斉反応が実現可能である。これまでに不斉マンニッヒ反応、ヘンリー反応やフリーデル·クラフツ反応などの開発に成功している。
また、開発した有機触媒反応を基盤とした有用生理活性物質の効率的な合成手法の開発も行っており、これまでにlinoxepin、trans-dihydrolycoricidine、rishirilide B、gracilamineなどの不斉全合成に成功している。
関連論文
Angew. Chem., Int. Ed. 2010, 49, 7299.; Angew. Chem., Int. Ed. 2010, 49, 9254.; J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 1909.; Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 6609.; Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 2229.