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「きのこ」の研究で植物バイオマスを有効利用!

自然界において植物を分解する主要な生物はきのこ類(担子菌類と言います)です。一般に、きのこというと食品のイメージがありますが、実はきのこは【植物を完全に分解する能力を持つ地球上で唯一の生物】であり、生態系における分解者としてとても重要な役割を果たしている微生物なのです。私たちの研究室では、きのこの植物分解メカニズムを明らかにすることで、以下の4つの面から人類に貢献できると考えています。
1)きのこの植物分解力を利用して植物から様々な有用物質を生産し使用する技術を開発する(バイオ燃料生産や新規生分解性プラスチックの開発など)
2)きのこの攻撃から植物材料を守る技術を開発する(住宅の腐朽被害の防止技術や腐朽診断技術)
3)放射能汚染土壌をきのこにより除染する技術を開発する
4)きのこの森林生態系物質循環における分解者としての働きを解明する

特に、きのこを対象にして、遺伝子(ゲノム)、タンパク質、細胞レベルで研究しています本研究で取り組んでいるどのような研究においても、私達の基本となる考え方は、【微生物に学ぶ】ということです。





研究ミッション 1)

きのこの植物分解力を利用して植物から様々な有用物質を生産し使用する技術を開発する

現在の地球環境は、温暖化やエネルギーの枯渇といった深刻な問題を抱えており、石油に依存しない循環型社会の構築が求められています。この様な背景から、再生可能なバイオマス資源を原料としてバイオ燃料やマテリアル原料を作り出す技術が盛んに研究されています。しかし、現在これらの目的で利用されているバイオマスはトウモロコシやサトウキビなどの食物であることから、食糧との競合が懸念されています。そこで、食糧と競合しない資源である農産廃棄物や林産廃棄物といったリグノセルロース系バイオマスに期待が集まっています。しかし、これらのバイオマスは堅牢で複雑な構造を持つことから、バイオ燃料や生分解性プラスチックなどの原料となる単糖類を抽出することは容易ではありません。自然界においてそれらのバイオマスが微生物により分解されていることを考えると微生物に学び、その分解機構を利用する(まねる)ことが極めて有効ではないかと思われます。
そこで本研究室では、きのこの高い植物分解能力に注目し、自然界において木材などがきのこによりどのように分解されるのかを明らかにし、きのこの持つ分解能力(セルラーゼやヘミセルラーゼなどの加水分解酵素や多糖モノオキシゲナーゼやセロビオース脱水素酵素などの酸化還元酵素)を最大限利用することで、木材およびその他の未利用植物バイオマスから単糖類を取り出す技術を開発する研究を行っています。また、褐色腐朽菌と呼ばれるきのこ類が持つ極めてユニークな植物分解能力を人工的に利用するための研究については、欧米の様々な研究機関と国際共同研究を実施しています。

褐色腐朽菌の特殊な植物分解メカニズムの解明

褐色腐朽菌は、極めて強力な植物バイオマス分解能力を有するきのこ類です。本菌類は、他の生物種では類を見ない特殊な植物分解メカニズムを持つことが知られていますが、その詳細については不明な点が極めて多いのが現状です。そこで本研究室では、ノルウェー?デンマーク?アメリカなどの研究機関と共同で、褐色腐朽菌の植物分解メカニズムを完全解明し、さらにその分解メカニズムを利用して新しいバイオマス変換技術を開発することに挑戦しています。RNA-seqなどのトランスクリプトミクスやメタボロミクスといったポストゲノム解析、酵素の三次元構造解析や生化学的解析、電子スピン共鳴解析、中性子小角散乱解析など様々な解析手法を利用して多角的な研究を実施しています。

きのこが生産するセルラーゼの機能解析

きのこ類は複雑な構造で成り立つ植物バイオマスを分解するために、多種多様な分解酵素を生産します。本研究室では、三次元構造解析や遺伝子発現解析、生化学的解析などを駆使してきのこが生産する様々なセルラーゼの機能解析を実施しています。これは、植物バイオマスを有用物質に変換する際の重要な過程である糖化プロセスを効率化する技術の開発に役立ちます。

きのこが作る新規酸化還元酵素の探索と機能解析

きのこには植物分解に関わる未知の酸化還元酵素が多様に存在しています。本研究室では、それらの新しい酵素を探し出し、さらに詳細に解析することで酵素の特性を明らかにしようと研究しています。最近見出したきのこの酵素が、真核生物として世界で初めてのPQQを補酵素とする酵素であることを明らかにし、新しい酵素ファミリーとして登録されました。このような酸化還元酵素の研究は、バイオマスの効率的な糖化技術の開発に繋がることはもちろんのこと、最近ではバイオ燃料電池などへの応用も検討されています。

植物細胞壁分解酵素による植物バイオマスの糖化

上の写真(セルラーゼによって紙を分解した写真)にあるように、きのこなどの微生物の植物細胞壁分解酵素を利用すると、植物バイオマスを糖化分解でき、その結果、有用な単糖類を得ることができます。しかしながら、植物バイオマスはセルロースやヘミセルロース、リグニンといった高分子化合物が複雑に絡まり合ってできているので、その分解は容易ではありません。そこで、本研究では、多様な植物分解酵素を様々な組み合わせで作用させることによって、堅牢な構造を持つ植物バイオマス(特に農産廃棄物や林産廃棄物)を最も効率よく分解することが可能な酵素の組み合わせを探索しています。

研究ミッション 2)

きのこの攻撃から植物材料を守る技術を開発する

日本の住宅は主に木造住宅ですが、地震の多い我が国では、住宅の腐れを防ぎ、強度を保つということが極めて重要であることは言うまでもありません。また、木材の腐れを防ぐことでより長期間木造構造物が使用できるようになれば、カーボンストック (大気中の二酸化炭素を木材として固定しておく機能)量を増やすことになり、また、木造構造物の製造や廃棄にかかるエネルギー量を低減することにもなることから、大気中の温暖化ガスの低減に大きく貢献します。そして、そのような木造構造物の腐れを防ぐためには、人体や環境に影響がなくしかも効果の高い木材保存剤(防腐剤)の開発や腐れを早期に検出できる診断法などの開発が重要です。
本研究室では、きのこ類が木材を腐らせる(つまり分解する)メカニズムを詳細に解析することで、そのメカニズムに基づいた木材保存法や腐朽診断法を開発するべく研究に取り組んでいます。


きのこが木材を分解していく様子を可視化する

きのこの木材分解メカニズムを理解するためには、木材中に侵入した菌糸を生きた状態で観察したり、遺伝子が発現している場所を検出したりする技術が大いに役立ちます。本研究では、従来用いられているDNAプローブではなく、ペプチド核酸(PNA)プローブという特殊な化合物を利用することで、きのこの遺伝子発現部位を効率良く検出することに成功しました。この技術を用いて、きのこが木材の中に菌糸を伸ばしていく様子を可視化することにも成功しています。

住宅を腐らせるきのこの分布地図を作る

自然界では多種多様なきのこが木材を分解しています。したがって、木造住宅の腐れを引き起こす原因菌を特定することは容易ではありません。そこで本研究室では、次世代DNAシークエンサーという最新のDNA解析技術を利用して、様々な地域の住宅に侵入しているきのこ類の種類を調査することで、全国各地の木材腐朽性のきのこ類の分布地図を作成し、木材の腐れを防止する技術の開発に役立てようと試みています。

きのこの匂いで木材の腐れを診断

微生物は代謝の産物として多様な揮発性の有機化合物(MVOCと呼びます)を発散します。本研究では、きのこも他の微生物と同様にMVOCを発散することに注目し、きのこが木材を分解するときにのみ発散するMVOCを特定したり、特定のきのこのみが発散するMVOCを特定したりすることで、これをマーカーにした腐朽診断技術の開発に取り組んでいます。これにより、非破壊かつ高感度の腐朽診断が可能になることが期待されます。本研究は東京都立産業技術研究センターと共同で実施しています。

その他の研究ミッション

3)その他にもきのこを対象にした色々な研究に取り組んでいます

上述してきたように、本研究室ではきのこの木材分解能力に注目し、それを人類のために役立てるための様々な研究に取り組んでいます。それに加えて本研究室では、「きのこ」をキーワードにした様々な研究に取り組んでいます。例えば、きのこの子実体(みなさんが「きのこ」として食べている部分は子実体と呼ばれます)がどのようなメカニズムで形成されるのかを明らかにすることを目指した研究にも取り組んでいます。また、きのこの中での金属の動きなどの研究についても研究しています。