Research 研究紹介
RNA干渉
◆植物のRNA干渉(RNAサイレンシング)機構の研究
1998年に2本鎖のRNAを細胞に導入することによって遺伝子の発現を効率よく抑制する技術(RNA干渉、2006年にノーベル賞受賞)が発見されました。その後、次々とRNAが関与する生命現象が発見されています。現在では、miRNAやsiRNAと呼ばれる20-25塩基程度の小分子RNAが、ウイルスなどの寄生体に対する生体防御、遺伝子発現調節を通した発生制御、DNAのメチル化を通したエピジェネティックな遺伝子発現制御など、重要な生命現象に関与することが報告されています。 また、小分子RNA(RNA干渉)は、遺伝子発現制御技術や、ガンやエイズなどのウイルス感染症などの病気の治療法として医療への応用も期待されています。
◆小分子RNAの生成機構
モデル植物シロイヌナズナには、2本鎖RNAを切断して21-24塩基の小分子RNAを生成するダイサーと呼ばれる酵素が4種類(DCL1~DCL4)存在することが知られています。しかし、これら4種類の酵素の酵素活性や反応機構などは不明でした。本研究室では、シロイヌナズナの芽生えの抽出液を用いて、簡便に効率よく2種類のダイサー(DCL3とDCL4)の活性を検出することに成功しました(Fukudome et al., RNA 17: 750-760, 2011)。この実験系を用いて、DCL3とDCL4の酵素活性を詳細に解析したところ、DCL3は、50塩基対以下の短い2本鎖RNAを好んで切断し24塩基のRNAを生成し、DCL4は、50塩基対以上の長い2本鎖RNAを好んで切断し21塩基のRNAを生成することが分かりました。また、それぞれの酵素は、至適塩濃度やATPの要求性など酵素特性が異なることが明らかとなりました(Nagano et al., Nucleic Acids Research 42: 1845-1856, 2014)。 DCL3は、DNAのメチル化にはたらく24塩基の小分子RNA (siRNA)を生成し、トランスポゾンの不活性化やヘテロクロマチンの維持などにはたらき、一方、DCL4は、21塩基の小分子RNA (siRNA)を生成し、ウイルス感染防御や外来遺伝子のサイレンシングにはたらきます。今後、ウイルスやトランスポゾンといった核酸寄生体に対する植物の防御機構を解明し、ウイルスに強い作物の育種に応用してゆきたいと考えています。
◆細胞内での小分子RNAによる遺伝子発現制御機構の解析
2本鎖RNAや小分子RNAによって、mRNAが切断されたりDNAがメチル化されることによって遺伝子の発現が変化することが知られています。このようなDNAの塩基配列に変化がなくとも遺伝子発現に変化が起きることをエピジェネティックな遺伝子発現制御と呼びます。植物では、24塩基の小分子RNAによってDNAのメチル化が誘導されることが知られていますが、その機構は不明な点が多く残されています。本研究室では、シロイヌナズナのプロトプラスト(裸の細胞)に直接2本鎖RNAを導入する実験系を用いて、2本鎖RNAによってmRNAが分解される反応(RNA干渉)や、DNAのメチル化が誘導される反応(RNA依存DNAメチル化)を解析しています。
◆細胞の初期化(リプログラミグ)におけるRNA干渉の役割
植物細胞は、分化全能性を有し、一度分化した細胞も、ストレス(刺激)や植物ホルモンの処理によって容易に脱分化(初期化)したカルスと呼ばれる細胞塊となります(動物細胞ではES細胞やiPS細胞のような状態)。カルスは、植物体へと再分化する能力(全能性)を有しています。このような細胞の初期化におけるRNA干渉機構(ダイサー)の役割を解析しています。また、生殖細胞形成におけるRNA干渉機構の役割についても研究を進めています。