右のこの多環性の芳香族集合体分子について,次のアプローチで基礎的な検討を進めています。
標題の化合物群は,最近私たちの研究室で見いだした選択的な生成反応によりできる化合物です。
この化合物は,ナフタレンのペリ位(ナフタレンの内側の隣り合った炭素の位置)に2つのアロイル基(=芳香族カルボニル基)が置換するという込み入った構造をしています。それぞれのアロイル基の外側にはメトキシ基がついていますから,4つの置換基が並ぶ立体障害の大きそうな分子です。
私たちはこれまで
を目指し,「全芳香族ポリケトン」を合成や脱一酸化炭素/脱水素を伴う結合生成を考えて,そのためのいろいろな芳香族化合物を探していました。そこで,2,7-ジメトキシナフタレン(この化合物が得られる反応の出発物質)を試していて,面白い反応の挙動と生成物の構造に「これは何かある!」と惹かれました。いろいろ調べを進めるうちに,この化合物がいろいろな可能性を持っていることが分かってきました。現在は研究室の大部分のメンバーがいろいろなアプローチでこの化合物の特性を見極めて,自分の発見した化学を世に出そうと日々研究しています。
現在,いろいろなことが分かりつつありますが,さらに新しいことが次々に出てきて極めて可能性のある,興味深い化合物であることがよく分かりました。
まだまだ有機化学の世界には,このような基本的な反応や分子構造を調べる課題が残っています。世に出ることができたこの化合物を大事に育てていきたいというのが私たちの願いです。これからもしばらくこの化合物を調べていこうと思っています。
これから少しその特徴を説明します。
この化合物が生成する反応は「親電子芳香族置換(求電子芳香族置換ということもあります)アシル化反応」と分類されるもので,ケトンができる反応です。代表的なものとしては,フリーデル?クラフツアシル化反応が有名です。本反応の場合には芳香族カルボン酸あるいはその活性誘導体のアシル基部位が別の芳香環に置換するアロイル化が進行することで,カルボニルの両側が芳香環のケトンができます。実は芳香環と芳香環がカルボニル基に結合した生成物ができる時には,逆反応(脱アロイル化反応)はほとんど起こらないとされています。この有機化学の基本的な課題を解明して合理的な説明をしようと試みています。
芳香環が非共平面的に並ぶ分子は,小さな半独立共役空間が密集する小宇宙です。いろいろな特殊な分子の振る舞いが見られそうです。そのような,分子構造をうまく作る方法を確立するのは重要なことだと考えています。
類縁化合物も含めて選択的で高効率の変換を目指しています。鍵は,分子設計と酸性媒介体のようです。
X線結晶構造解析で静止した分子の形を調べています。固体の結晶構造も有機分子はいろいろ元気です。まして,非常に込み入った分子ですから周りの分子のいろいろな影響が出て,千差万別の模様です。こういう空間では,普通はあまり重要ではない,相互作用(原子や分子同士の関わり合い)がクローズアップされて,いろいろ想像も広がります。
分光学的にダイナミックな構造を調べます。溶液中では,分子そのものも動くし,分子のいろいろな部分も,構造の規制を受けながら動いています。さらに,溶媒分子がついたり離れたり。強い磁石の中に溶液を入れて,温度を変えて,ラジオ波(電磁波)の吸収-放出を追跡して,分子の動的な動き方を調べます。
重合反応を工夫して大きな分子を作っています。中心は芳香族ポリエーテルケトンの合成です。カルボニル基(C=O)とエーテル基(-O-)が芳香環を結びつけて大きな分子にしている構造です。炭素と水素と酸素だけで構成されていて,窒素や硫黄,ハロゲンがなくても,熱に強く,強靭な高分子-スーパーエンジニアリングプラスチックを創りたいと思っています。
いろいろな変換?誘導→機能解明を行う。
内容はsecret。面白い分子が見出されつつあります。研究室にいらっしゃった方にはお話しできるかも。