研究分野について

森林利用システム学とは

まずは森林利用システム学という学問の内容を説明しましょう。森林利用システム学とは、2つの大きな目的のためにアプローチする学問です。

  • 木材をはじめたとした林産物および森林バイオマス資源を「安全に」「楽に」「効率よく」収穫する。
  • 森林が持つ多面的機能を持続的に最大限発揮させ、森林から得られる収益を最大化するように管理する。

 森林は再生力を持っているため、伐採の方法や強度を適切に管理すれば、持続可能な資源になり得ます。この観点からは、「森林の利用」と「持続的な管理」は、互いに補完し合う同一の問題範囲に位置づけられると言えるでしょう。「森林の持続的な利用と管理」を軸として研究を行い、林業を行うことで豊かな森林を維持することが当研究室の目指すものです。

斧

研究分野

私たちの研究室で行っている研究を6つに分類しました。

  • 林業機械の開発と効率的な利用方法の検討
  • 森林資源を持続的に利用するための生産基盤の構築
  • 林業作業の生産性の向上と環境負荷の低減
  • 林業従事者の労働負荷の軽減と安全性の向上
  • 木質バイオマスのエネルギー利用
  • 林業と林業にまつわる文化の歴史

林業機械の開発と効率的な利用方法の検討

 1つ目は、林業に使用する機械の開発と効率的な利用方法に関する研究です。林業の機械化においては、残念ながら日本は海外の国々から遅れをとっています。それは、日本の森林が急峻な山岳地にあることや、小規模所有者が多いといった事情が理由となっています。したがって、海外の機械をそのまま輸入して使える場合もありますが、日本の国内事情に合わせた改良/開発が必要となる場合もあります。また、地拵え、植栽、下刈り、枝打ち、間伐、主伐といった林業の各プロセスにおいて、それぞれ特別な機械が必要となるため、どのような機械を導入すべきか、またどのような機械を開発する必要があるか、といった検討も重要です。すなわち、より高性能な機械だけでなく、より現場へ導入しやすい機械、という視点も重要です。

 近年、林業の現場においても情報技術の利用は進んでおり、GIS(地理情報システム)を用いた地形解析や作業計画はごく普通のことになりつつあります。また、レーザ測距装置であるLiDAR(Light Detection And Ranging)の利用も進みつつあり、地上から測樹を行ったり、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)に搭載して地形測量や測樹を行ったりすることが実用化されてきています。さらに、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)を用いた車両の自律走行なども研究されています。

※SLAM:カメラやレーザスキャナなどのセンサで周囲の情報を計測し、その情報をもとに自己位置を推定するとともに、環境地図を構築する技術。

森林資源を持続的に利用するための生産基盤の構築

 2つ目は、森林を持続的に管理するために必要な、林道や作業道の構造や、それらが形作る路網に関する研究です。樹木の苗木を植栽し、森林として育成し、資源利用を持続的に行うためには、それらの作業の基盤となる路網が必要です。森林管理を効率的に行うためには、どこにどのような規格の道をどれだけ配置すべきか、といった路網配置に関する研究や、持続的に利用可能な作業道を作設するための施工方法や道路構造に関する研究を行っています。

林業作業の生産性の向上と環境負荷の低減

 3つ目は、林業作業を効率良く、そして環境に優しく行うための研究です。前記の機械化も基盤整備も、このためにあると言っても過言ではありません。実際に作業を行っている現場で作業観測を行い、現状の作業システムにどれくらいのポテンシャルがあるのか、またどこに問題点があるのか、分析して明らかにし、最終的には作業システムの最適化を行います。このために、路網を導入したり、機械を導入したりするうえで、前記の研究が重要な役割を果たします。 また一方で、山に道路を作設したり、林業作業を機械化したりすると、環境へ負荷がかかります。林業作業の環境負荷を測定したり、代替手段の環境負荷を測定して比較したり、それらを統合して適切な手法を構築したり、といった研究を行っています。

林業従事者の労働負荷の軽減と安全性の向上

 4つ目は、林業の現場で働く人々の労働負荷を軽減し、安全性を向上させるための研究です。前記のように、林業作業の効率、生産性を向上させることは重要な課題ですが、その作業を行う人にとっては安全でかつ楽でなければなりません。しかしながら、林業では今でも毎年1,500人から2,000人に一人の確率で死亡事故が発生しており、他の産業と比べて極めて危険な産業になっています。この問題を解決しなければ、若者達にどうぞ林業に就いてくださいとは言えません。前記の機械化と路網の構築はまた、このための技術であるとも言えます。機械化によって、生身の人間が地面に降りたり重い材に手で触れたりしなくてすめば、安全性は向上しますし、労働負荷も低減します。また路網によって、これらの機械を活用できるだけでなく、作業する人が楽に安全に現場まで到達することが可能です。これらの研究を、特に事故が多発している伐倒作業を中心に、全ての作業について行っています。

木質バイオマスのエネルギー利用

 5つ目は、森林からの生産物を、木材などのマテリアルとして利用するだけでなく、燃料としてエネルギー利用するための研究です。木質バイオマスは、カーボンニュートラルとされており、燃料として化石燃料を置き替えることは、持続可能な社会の構築において重要です。木質バイオマスの生産方法、加工方法、利用方法について、効率良く行うだけでなく、環境負荷を最小にするための研究を行っています。このために、作業観測を行ったり、燃料消費量の測定を行ったりしています。

林業と林業にまつわる文化の歴史

 当研究室では、一般的な森林利用学の範疇を越えたような研究も行っています。前記の作業システムの評価は、現代の作業システムだけでなく、流送などの歴史的作業についても行っています。そのために古文書を紐解くと、その時代の文化や生活まで蘇えってきます。また、山の神といった、過去から現代に続く林業に関わりの深い文化行事についても研究を行っています。

先生

個々の探求心を研究に

 以上のように広い分野にまたがる研究を行っている我が研究室ですが、最も重要なことは、学生一人一人が自発的にテーマを決めて研究しているということです。したがって、研究分野はさらに広がる可能性を秘めています。一方で、自発的な研究テーマということは、そこに辿り着くまでの生みの苦しみもあることを意味します。時には、研究方法すら、新しく考えなければならない場合もあります。しかし、その苦しみがあるからこそ、一人一人が自身の研究に愛着を持って取り組めるのだと言えます。

 日本の森林のため、林業のため、といった大上段に構えた研究も大切ですが、興味があるから、面白いからやる、そういった自発的な研究こそが、研究分野の発展に繋っていくと信じて。