平成19年度入学式告辞 |
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東京農工大学に入学された皆さん、おめでとうございます。東京農工大学を代表して心からお祝いを申し上げます。 本年度の新入生は、学部では、農学部が346名、工学部は652名で合計998名です。大学院は、工学府、農学府、生物システム応用科学府、連合農学研究科、および技術経営研究科の五つで構成されておりますが、それらを合わせますと、博士前期課程666名、博士後期課程138名です。これら学部、大学院全体を合わせた新入生の総計は1800名となります。この中にはアジア、アフリカ、南アメリカ、ヨーロッパからの留学生107名が含まれております。東京農工大学の一員となられた1800名の皆さんを、心より歓迎いたします。これまで側面から皆さんを支え、この日を待ちわびてこられたご両親やご家族の皆様をはじめとした関係各位のお喜びもひとしおと思います。心よりお祝い申し上げます。入学した皆さんには、これまで皆さんを支えてこられたご家族やご指導をいただいた先生方などに対して、改めて感謝の気持ちを思い起こしていただきたいと思います。 さて、本日より東京農工大学の一員として活動を始めるわけですが、皆さんが一堂に会する機会は実は本日を除くと卒業式あるいは修了式しかありません。この貴重な機会に是非お話したいことがあります。 まず受験界ではあまり知られていない本学の優れた側面についてお話しましょう。東京農工大学は皆さんが思っている以上に大変に優れた大学です。 本学は130年にも及ぶ長い歴史と伝統のある大学で、産業の基幹となる農業と工業を支える学問領域を中心とした科学技術系大学として発展してきました。今から3年前の平成16年4月に全ての国立大学は国立大学法人になりましたが、本学は法人化と同時に大学院での教育と研究に重点を置く大学院機軸大学になり、名実共に研究大学として生まれ変わりました。本学ではそれまでの実績に裏打ちされた高い基礎の上に、さらに研究大学としての基盤を強固なものにするための各種の取り組み・改革を進めてまいりました。その成果は着実に上がってきております。競争的資金や企業との共同研究・受託研究などの研究費は外部資金と呼ばれますが、本学の外部資金が大学の運営費に占める割合は全国で五本の指に入る高さを誇っております。このことは本学教員の研究の質的高さがトップクラスにあることを示しております。また、経済産業省や日本経済新聞社による各種の調査においても、本学よりもはるかに大きな大学を尻目に、本学の研究力や研究成果の情報発信力、産官学連携活動に関する評価などにおいて全国のトップクラスに評価されております。この様なことは、受験界ではあまり取り上げられないために、広く知られているわけではありませんが、本学は全国でも有数の実力を持つ大学であるといってよいと思います。皆さんは学部四年生になれば卒業研究に取組みますし、大学院生であればすぐに研究を始めます。自らの研究成果を発表する学会活動などを通して、本学の学界でのステータスの高さを実感し納得することでしょう。本学の一員であることに大きな誇りをもって進んでいただきたいと思います。いま、大学の教育研究活動は厳しく評価されます。しかも大学全入時代を迎えましたので、大学はかつてない競争の時代にあり、実力次第のいわば乱世の中にあるといってよいと思います。その中で本学は着実な発展に向けて全学一丸となってさらに一層高いレベルを目指して進んでおります。皆さんは安心して思う存分本学で学んで下さい。そのことがまた本学の発展に大きな力となるのです。 次に本学の基本理念についてお話いたしましょう。本学の基本理念はMORE SENSEと略されます。この略称の由来については、ホームページなどで確認していただきたいと思いますが、これは東京農工大学における教育と研究、およびその成果を社会に還元することにより、循環型社会、持続型社会の構築に寄与し、美しい地球の持続に大きな役割を果そう、という壮大な目的を示したものです。二十世紀の社会と科学技術が顕在化させた深刻な課題に地球温暖化、環境汚染、人口急増による食料不足、エネルギー不足などがあります。これらは人類の生存そのものを脅かす地球規模の大問題です。たとえば地球温暖化の問題です。アメリカのアル・ゴア元副大統領が著した「An Inconvenient Truth」という本は、地球温暖化をこのまま放置すると、いかに深刻な問題を引き起こすかをさまざまな角度から説き、この問題の深刻さについて警告したもので、世界的なベストセラーになりました。これら人類の生存を脅かしかねないグローバルな課題を如何に解決するかは二十一世紀の科学技術に課された重要課題ですが、これらの多くが農学や工学、あるいはその融合領域にかかわりのあるものです。農学と工学およびその融合領域を柱とする本学はこれらグローバルな問題を解決し、循環型社会、持続発展可能な社会の構築に向けて大きな役割を果たしうると考えられます。 この基本理念を組み込んだ本学のモットーがあります。それは、 『地球をまわそう MORE SENSE 農工大』 です。MORE SENSEという基本理念を具現し、人間の活動が他の生物とも調和し、持続性のある循環型社会を構築し、地球全体がうまく循環したものになるようにそれぞれの立場で努力しよう、ということを意味したものです。皆さんにはこれから日々学ぶ中で、この基本理念であるMORE SENSEをときどき思い起こし、みずからの専門での目指す方向性を定めていただきたいと思います。 さて、皆さんはこれから本学での勉学生活をスタートされるわけですが、しっかりとした目的意識を持って有意義な大学生活を送っていただきたいと思います。そのために、皆さんに4つほど期待したいことがございますので、それについてお話しましょう。 大学では“一方的な知識の伝授”が主体ではなく、自ら主体的に学ぶ姿勢が問われることに注意して下さい。高等学校までは、一定の範囲内の知識を吸収し、理解できればよかったわけですが、大学ではその範囲は無いに等しく、正解が不明な領域まで含まれます。学生諸君は自ら進んで考え、調べ、さらには新たな知を生み出すことまで要求されます。よく知られた孔子の言葉に、 「学びて思わざれば則ち罔(くら)し。思いて学ばざれば則ち殆(あや)うし」 というのがあります。まさにこのことを言っているもので、皆さんがこれから講義を通して色々な知識を吸収し、研究上必要な多くの文献を読んだとしても、それに基づいて常に思索をめぐらさないとその知識は身に着いたものにはならないし、逆に、一人で思索するだけでは独善的なものになってしまう、という戒めの名言です。「学びて思い、思いて学ぶ」の姿勢を常に忘れないようにして下さい。これが皆さんに対する第一の期待です。 いま学問は高度専門化した状況にあります。その一方では、狭い専門的知識や技術のみでは対処できない問題が多くなってきております。幅広い教養と高い倫理性に裏打ちされた、総合的な判断力が要求されるわけです。そのために、広く浅く学ぶことが必要なように思われるかもしれません。しかしそうではありません。今はかつてない程の情報の洪水の中にあります。たとえば、検索ソフトに一つのキーワードを打ち込むと、何十万もヒットすることを皆さんはすでに経験済みでしょう。その中から的確な情報を抽出するのは簡単ではありません。一つの分野のスペシャリストになれば、しっかりとした判断基準が身につきます。そうでなければ、判断基準が揺れ、溢れる情報の中で正しい方向性を見出すことはとても困難です。是非自らの専門分野のスペシャリストを目指して下さい。自らの専門分野の先端に立つ存在にならなければなりません。ただし、それだけでは視野の狭い独善的な世界に落ち込むことになってしまいます。自分の専門と他の分野とがどのように関連しているのか、技術全体の流れの中での互いの位置づけを把握するために、絶えず意識的に考える努力も必要です。他の研究者の研究の狙いや方向性を見定める努力をする必要があります。そうして初めて底の浅いジェネラリストから、複合的・総合的な判断力を要求される問題にも対処できる多元的な視野を持つ技術者に成長できると思います。皆さんにはそのような技術者、すなわち「幅広い視野を持つスペシャリスト」を目指していただきたいと思います。これが第二の期待です。 ここまでの内容は皆さんの専門に直接あるいは間接的に関係する自然科学系だけの学問のことと聞こえたかもしれませんが、そうではありません。いわゆる一般教養科目といわれるものの重要性を指摘しておきたいと思います。大学では自然科学だけでなく、人文科学、社会科学など幅広く学習することになります。そこでは、人間や歴史、文化についての知識を広め、色々と思索をめぐらすことでしょう。その中で、思考力が養われ、物の見方、考え方を身につけることができます。まさに多元的視野を身につけるのに必須のものといえるでしょう。さらには人格形成にも大きな糧になるものです。大きく成長した木には、目には見えませんが、地中でしっかりとした大きな根を張っていることを考えてみて下さい。いわゆる一般教養科目は、多元的視野を持つ一流の研究者・技術者としての基盤形成に重要な役割を担うものですので、専門科目と同様に、しっかりと学び、豊かな人格を形成していって欲しいと思います。これが第三の期待です。 大学の役割の大きな部分は学ぶ場としての機能にあるわけですが、大学というコミュニティでの生活は皆さんの人間形成に重要な場を提供します。大学には高校とは比較にならない人的広がりがあります。日本全国から、さらには世界中からいろいろな考えを持つ人が集うのが大学です。今はグローバル化の時代といわれますが、グローバル化は世界が均一になることを意味しません。むしろお互いの多様性を認め合い、それを尊重することがベースになります。本学全体では三十近い国と地域から四百名を超える留学生が学んでおります。異なった国や民族の風俗習慣、宗教、歴史、政治、経済などを十分に理解し尊重した上で、自らもしっかりとした意見を持っていろいろな問題をフランクに議論できる能力を持つことこそ、グローバル化の時代における国際人に必要な資質です。国際色豊かな本学での学園生活を通して、グローバル化の時代にふさわしい国際人としての資質を大いに磨いていただきたいと思います。「真の国際人たれ」と希望したいと思います。 以上、これからの皆様の本学における学園生活が実り多いものになることを願い、本学で学ぶにあたっての私の期待を述べてみました。21世紀を持続発展可能な社会の再構築に向けて前進する世紀にするのは、次代を担う若い皆さんです。それに応えるために、何事にも自発性と行動力を持ってあたる積極的な学園生活を送って下さい。明日を担う社会人として成長されんことを期待して、告辞と致します。 |
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平成19年4月6日 東京農工大学長 小畑 秀文 |