マトリックス単離赤外分光法と量子化学計算

マトリックス単離法 によって貴ガス固体中に分散させた分子 の赤外吸収スペクトルには分子間相互作用によるバンドシフトやバンド線幅の広がり、回転線が現れません。
すなわち、真空中の1分子を計算する量子化学計算とよく似た測定環境にあると言えます。
そのため、マトリックス単離赤外分光法で得られる〝理想的な振動スペクトル”は量子化学計算による〝シミュレーションスペクトル” でかなり正確に再現することが可能です。

comparison

酢酸(CH3COOH)の赤外吸収スペクトルを下図に示しました。(a)無極性溶媒である四塩化炭素に溶解させた酢酸のスペクトルでも バンドシフトや線幅の広がりは避けられませんが、(b) ネオン固体中に単離した酢酸のスペクトルは非常にシャープな線幅となっています。 (c)量子化学計算(ここではDFT法のB3LYP/6-31++G(d,p)で求めた振動数にスケーリングファクター0.98を使用)によるシミュレーションスペクトルは (b)マトリックス単離スペクトルを非常に良く再現できていることがわかります。
このようにマトリックス単離赤外スペクトルは量子化学計算で再現できるので、これまでに報告例のない分子種が光反応によってできたとしても 分子種同定が可能になります。

AA in matrix

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